ドイツ個人旅行のガイド藤島が体験したベルリンの壁のお話です。


1989年11月9日の崩壊したベルリンの壁について、1980年から85年まで旧東ドイツに住み、
現在では個人旅行のお客様をご案内しているガイドが、ベルリンの壁の建築から崩壊、そしてドイツ統一までの
歴史をつづります。






ベルリンの壁の話 その13

7月16日、コール首相とゴルバチョフが会談し、ゴルバチョフは正式に統一ドイツがNATOに
加盟することを承認した。

東ドイツに駐留するその数21個師団、26万人と聞いているソ連兵は、1994年までに本国へ
送還されることになるのだが、本国に帰っても彼らの住む兵舎がない。

この建築費用もドイツ政府が出すことになり、それはいいのだが、後にこの建設を、トルコの建設業者が
請け負うことになり、大騒ぎになった。

それはともかく、これで対外的には準備が整った。

それにしても金のかかる話である。
東ドイツの背負い込んでいる借金を引き受け、年金受給者への年金、これから予想される大量の失業者への手当て、
アウトバーン、あらゆる建築物、電話回線などの整備、公害でやられた自然の回復、それら全ての処理、再建が、
これからの統一ドイツの背中にかかってくるのである。

はたして、東の人たちに対してどのようなこと、どの程度のことを期待できるか?

彼らはどのような貢献をしてくれるのか?

コール首相は、西ドイツ財界に、「できるだけ早急に東ドイツ企業を共同体を形成し、資本投下をして欲しい。
さもなければ日本がやってくるであろう」と呼びかけた。

おりしも、日本ではバブル経済が最高潮に達していた時代であった。

8月23日、東ドイツ人民議会は3分の2以上の賛成票を持って、10月3日に西ドイツと併合することを可決した。

31日には東ベルリンでショイブレ西ドイツ内務大臣と、クラウゼ東ドイツ国務次官との調印が行われ、
さらには9月12日、モスクワにて、2+4ヶ国が、統一ドイツを正式に独立国として認可する協定に調印し、
連邦憲法裁判所は、オーデル・ナイセ国境の設定は憲法違反するものではないと判断した。

そして9月19日から開かれた、連邦議会、連邦参議院、人民議会は、いずれも3分の2以上の
賛成票を持って、統一を最終的に確認したのだった。

このような会談、交渉、調印などをたどっていると、「さすが形式、手続きなどを重んじるドイツ」、
という印象を受ける。

全ては正式な手続きを踏んで「IN ORDNUNG(規定に沿っている)」決定したというわけである。

話はそれるが、1933年、ヒトラーが首相に就任した時も、全ては規定に則っており、それ以後に制定された、
今ではとんでもないと思われた法律も、全ては議会の正式な手続きを経て制定されたものであった。

これを無視して反抗するということは、ドイツ人には非常にきついのである。

逆に、「法律通りしてるんだから自分は決して悪くない」、あるいは「法律違反をしてない限り、何でも許される」
ということにもなるのだが。

さて、ドイツ統一の10月3日がやってきた。

どこかの国では、このような式典がある時には、〇波〇夫とかいう国民的歌手が出て来て、「統一音頭」などという
歌を歌い、デパートは、統一記念セールなどをやらかして、政治家から猫も杓子もお祭り騒ぎをしてはしゃぐのだが、
ドイツではそうはならなかった。

ベルリンフィルハーモニーの演奏会場に、ヴァイツゼッカー大統領、東西ドイツの政治閣僚などが集まって、
非常に厳かに行われ、国民は冷静にテレビでその様子に目を向けた。

大統領の演説は、ドイツの統一がドイツ人独自の意思によって完遂され、それがゴルバチョフや隣国の
協力によって実現しえたこと、そして過去のユダヤ人や第二次世界大戦、東ドイツ政府の非人道的行為にも及び、
最後に「我々ドイツ人が、ヨーロッパと世界の平和に対して責任を果たし、確信を持ちながらドイツ統一を
遂行すればするほど、国内の将来もより良くなるであろう。
歴史は我々にチャンスを与えてくれている。このチャンスを確信と信頼を持って我々は受け止めるものである」
と締めくくった。

こうして統一ドイツは、その正式なる第一歩を踏み出した。

壁が開いてからわずか11ヶ月で世界はめまぐるしく変わったのである。

これから以降、旧東ドイツ人たちは、いかに自分たちが甘い夢を見ていたかを思い知らされることになった。







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