ハイデルベルクの話 その4


日本の観光地では珍しくもないのだろうが、このハイデルベルクのお城の中庭では団体写真屋さんがいる。
春から晩秋にかけての営業なので我々と同じ季節労働者みたいなものである。
ガイド、添乗員がこの中庭でお客様にお城の説明をしている所に寄って来て、「ハイデルベルクノ 
ダンタイシャシンヤサンデス。」と声をかける。

こちらはもう分かっているので、その見本をお客様に差し出し、「このぐらいの写真で、説明が終って
解散するまでにでき上がります。一枚15マルクで気に入ったら買ってあげる約束です。」と説明し、
その写真屋さんは「カテモ カワナクテモ ケコーデス。」とやる。
お客様からオーケーが出て、「ハイどうぞ。小さな方は前、大きな方は後ろ、きれいな方は真中です。
皆さん真中へどうぞ!」と並んでもらう。
「ハイミナサン、ニコニコ!(パチリ!)モウイチマイ(カシャ!)。」

かなり前の話だが、やはり写真屋さんが寄って来て、お客様達にお伺いを立てたら、「撮ろう、撮ろう!」
ということになったのだが、そこから急にある中年のカップルがフッとどこかに入ってしまった。
「あれ?〇〇さんは?」 結局写真は撮らず終い。

観光も終り、ホテルの部屋にお客様に入って頂き、添乗員とホテルのバーで一杯やる。
「藤島さん!あのカップルは不倫なんです!あの人達からは、自己紹介はしてくれるな、お客様の名簿は
配ってくれるな、団体写真は撮ってくれるな、とやいやい言われてるんです!また言われます!
こんな時は私と相談してからやってください!」と添乗員。
「あのねえ。本人達は心やましいと思ってるんだろうけども、他のお客さんなんか、何とも思ってないよ。
中年の新婚だっているわけだし、名簿は配らないのは分かるけども、そんなにばれるのが恐いんだったら、
何で二人だけで来なかったの?びくびくしながらだったら楽しめないだろうし、他のお客さんがそれで
気まずい思いでもしたらどうしようもなくなるだろう。あんまりギャーギャー言うんだったら、もうばらすぞって
言ってやれ!」

この二人、医者と看護婦だそうな。お金はあるはずなのに一番安いツアーに参加していた。
「このお医者さん、よっぽど奥さんに財布を握られているのだろうな。」なんてことを考える。

この事件以来、写真屋さんが寄って来た時は常に、「添乗員に聞いてくれ。」ということにしている。



ハイデルベルク城