ワインの話 その2

貧乏性の私には、「なんでこれがこんな値段なんだ?」という疑問を持つ商品が非常に多い。
当然、それなりのブランド、というものがあり、知名度、品質、買い求める人達の価値観、などによって
違うのであろうし、何と言っても自由経済、と言う原則にのっとっているのだから、私がそれを
非難する権利は全くない。

ワインにも全くこれと同じことが言える。
ある時、フランクフルトのホテルから電話があった。
「お客様の一人が、ドイツで最高のワイナリーを訪れたい。」と言うのである。
私自身もワインは好きな方であるし、最も有名なワイナリーで、ドイツ貴腐ワインの発祥の地、ラインガウは
フランクフルトからさほど遠くなく、その中で最も有名なワイナリーあるヨハニスブルク最高のワインを醸造しているので、
そこに案内することにする。

お客様は世界を股にかけて飛び回っている40代初めのビジネスマンで、ワインのコレクターであった。

このワイナリーはその昔フルダの大僧正の領地だった所が、最後にはあのウイーン会議で活躍した
メッテルニヒがハプスブルク家からプレゼントされ、今でもその子孫が経営している、という由緒あるワイナリーで、
私も何度かお客様をお連れしたことがある。

特にここの貴腐ワイン、リースリング種のトロッケンベーレンアウスレーゼは非常に高く、口に出来るとは
全く考えもしていなかった。

そのお客様はワイン売り場をしばらく眺めていたが、売り場の男性に
「最高のワインはどれか?」と尋ね出した。
「1983年のリースリングのトロッケンベーレンアウスレーゼでございます。」「値段は?」
「フルボトル(0.75リットル)で510マルク(ざっと31,000円)でございます。」

これが日本に行ったら3‐5倍はするだろう。
「試飲は出来ませんか?」
「お気の毒ですが、出来ません。レストランに同じものでハーフボトルがございますから、そちらでお飲みになってください。」
「そうしましょう。気に入ったら買いますので、リザーブしておいて下さいね。」

というわけで私とお客様はレストランに入り、この貴腐ワインのハーフボトル(400マルク、約24,000円)を注文し、
ソーセージとチーズをおつまみにして試飲したのだった。

残念なことに、運転する私は飲むわけには行かない。このトロッケンベーレンアウスレーゼでも、リースリング種のものは
なかなか出来にくく、私自身も他のワイナリーのもので1回しか飲んだことがないほど非常に珍しいものである(私が飲んだの
は名もないワイナリー製のハーフボトルで2,000円ほどだった)。

結局お客様はこのワインを3分の2ほど味わい、検討していたが、購入するのを見合せ、有難いことに
残った3分の1を私にプレゼントしてくれたのだった。

さて、このお客様から、「どうしてもフランスのワインがほしいので、フランクフルトの主だったワイン店を回って欲しい。」
と言うリクエストが出た。

こちらとしてもいい機会でもあるので、3‐4ヶ所のワイン店を一緒に探しながら訪れたのだが、お客様が欲しいワインは
見つけることが出来なかった。

ボルドー、あるいはブルゴーニュの有名なワイナリーで(いわゆるブランド品か?)、しかも決った年のワインが欲しかったのだが、
どこにもないのである。

コレクターともなれば、かなりこだわりがある様だし、気に入ったものであれば値段などはあまり気にしないものなのだろう。
こうしてワインコレクターをお連れしたのだが、気に入ったものが全く見つけられなかった、という結果になった。

最後にお客様は奥様の為に有名なイタリアブランドのスーツを購入して行った。

さて、家に戻った私は、この残りのドイツで最も有名なワイナリーの貴腐ワインを味見させて頂いた。
確かに非常においしいものであったが、「現金400マルクとこのボトル、どっちが欲しい?」と問われれば、
「現金の方がいい!」と言う回答が出て来るのだが、誰かにご馳走されたならば、本当に感激する、というワインであった。