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盗られた話 その2

1983年8月だった。

秋田の片田舎で小さな食料品店を営む両親を、「今来なかったら一生来られないぞ!」と半ば脅かし、
それに叔母を加えて三人をフランクフルト空港に出迎え、わが愛用のシトロエン2CV6を駆って、
四人で旧東ドイツ、西ドイツ、オーストリア、オランダ、ベルギーを通り、パリで終える3週間の旅行をした。

本来パリは行くつもりでもなかったのだが、「ヨーロッパに行って花の都パリをはずした、
というわけにもいかんだろう。」という父の意見に従い、行くことにしたのである。

旅行は全て問題なく行なわれ、三人をシャルル・ドゴール空港で無事に成田行きの飛行機に乗せた。

その帰りにルーブル美術館のそばにある、今ではパリでは珍しくもないだろう、2日前に行った
「大阪屋」というラーメンとカレーのお店に入り、ラーメンを食べてホテルに帰ろう、
と地下鉄でロイヤル駅に向った。

その2日前に偶然このお店を見つけ、日本食はそれほどでもないのだが、本物のラーメンは東ドイツどころか、
西ドイツにもないのでどうしても食べたくなり、久し振りにおいしい思いをしていたのだった。

父は三週間振りに日本のキリンビールを飲んで満足していた。

地下鉄のロイヤル駅で下車、エスカレーターで外に出る直前、五人の子供達が私に近づいて来た。

その中の最年長らしき13才ぐらいの女の子が、私のGパンの左前ポケットを新聞紙で覆い、財布を抜き取った。

不注意にも、Gパンのポケットに少し穴があいていたので、落ちないように財布が少し見えるように入れていたのである。
一瞬の出来事だった。

「あっ!やられた!」と思い、すぐにその子の手をつかんだが、ない!すぐに私はこの五人の子供達、
いや、子供達、なんてかわいい表現は止め、あえてガキどもという表現をさせて頂くが、この五人のガキどもの
三人を捕まえ、声を限りに叫んだのだった。

「ヘルプミー、ヘルプミー、ヘルプミー!!!!警察呼んで、警察呼んで!!!」
これほど大声を上げたことはしばらくなかった。

別にフランス語が話せたわけではない。ドイツ語と英語をごっちゃにして大騒ぎしたのだった。

それを聞いたそばにいた人達が、「なんだ、なんだ?どうした、どうした?」と近寄って来た。

ふっと下を向くと、3〜4才ぐらいのガキが私の財布を持っているのを見つけた。急いでそのガキから財布を奪い返した。
このガキは「財布がなんとか」と叫んでいる(財布をさすポルトゥモネーはドイツ語にもなっていて、意味がわかった)。

その直後、警官が近寄って来た。「どうしたのかね?」「こいつ等に財布を盗まれた。」
「いや、こいつ等は、道に落ちていた、と言っていますよ。」「いいや、盗まれたんだ。」
「そうかね。でも取り返したんだからいいだろう。気をつけて行きなさいね。」

それ以外この警官は全くしないのである。あきれてしまった。

この理由は後でわかったことだが、法律では14才未満の子供は拘留してはいけない、ということで、
このガキどもはおとがめなしでそのまま釈放されたのである。

ぶん殴ってやろうかなどと思っても、そんなことをしてはいけない。
そんなことをして怪我でもさせ
たら、こちらが暴行で訴えられる。

「危なかった。」とほっとしていると、そばにいた一人の女性が、「私も盗られそうになったのよ。
気をつけましょうね。」と言ってくれた。

本当に危なかった。財布には父が「楽しい旅行ができた。少し余ったから持って行け。」
と言って私に置いて行ったお金が入っていた。

聞けば、大抵はある特殊な人種(はっきり言わないでおきます)のガキどもで、親公認らしい。
それどころか、稼ぎが少ない時は折檻される、とまで言われている。

こんな親に育てられたガキどもがまともな職業につくわけはないだろう。
乞食と泥棒は3日たったら止められない、と言われているのだから…。

パリでのスリに関する情報はかなり聞く。ガキどもが近づいてきたら、何語でもいいので
大声を出してびっくりさせるのがいいと思います。お気をつけて。










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