バイロイトの話 その2

このバイロイト音楽祭は8月に開催され、この町は音楽祭一色に飾り立てられる。人口約8万人ぐらいの町に
世界中の音楽家が一堂に集まるのだから、街のあちこちでスーパースターを見かけることも珍しくもないだろう。

この8月に開催される、という理由は、音楽祭に参加するスタッフ全てが世界一流の音楽家ばかりで、フリーランスの
ソリストは別として、指揮者をはじめ、コーラスやオーケストラ、そしてその裏方さん等は普段、どこかの劇場、
あるいはオーケストラで働いており、大抵はその劇場が夏休みの7月から8月の休暇の時期にあれこれ算段して、
この音楽祭に参加するというわけである。

メンバーによっては毎年のようにこの音楽祭に参加するのを楽しみにしている人達もいる、と聞いている。
もちろんそれなりのギャラは出るのだろうけれども、それほど多くはないだろうと思う。

世界最高の劇場で最高のメンバーが集まって上演され、しかもワーグナーづくしなのだから、ワグネリアンと
呼ばれる強烈なワーグナー好き(ワーグナーお宅?)にはたまらないだろう。
あのノイシュヴァンシュタイン城の建造主、ルートヴィッヒ二世がいたら泣いて喜んだだろう。

ただし、劇場に冷房装置がなかった時代は暑くてたまらなかったと思う。
サウナに入っているようなものか?皆ぐったりして出て来たのではないかと思う。

ワーグナーのオペラは、はっきり言わせてもらえばかなり疲れる。
イタリアのオペラのように、歌手がきれいなメロディを朗々と歌い上げるのではなく、何となく全てが怒涛のように
押し寄せて来る感じで、 「もういい、分かったから早く死んでくれ!」、と思ったりする(そうではないという方も
いらっしゃると思うが、これはあくまで私の感想)。

ニーベルンゲンの指輪、というオペラは、「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の4部作で、
4晩にわたって上演されるのだが、いつだったか覗いたギネスブックには、最長のオペラ、ということでニュルンベクルの
マイスタージンガーが載っていた。

ニュルンベルクのマイスタージンガーは、世界最大のオペラ劇場でもそれほど上演される演目ではない。
とにかく出演者が多すぎて、あちこちからエキストラを呼んで来なければならないほどだ。
私が東ドイツに住んでいた時、デッサウという町の劇場でこのオペラが上演されていたが、町の柔道クラブまでが
駆り出されていた。
もちろん柔道着を着けて舞台に立ったわけではないだろうが…。

ただ一つの例外としては、ニュルンベルクでは、何と言ってもこの地が舞台になっているせいで常時上演されているようだが、
夕方の6時に始まり12時に終了し、休憩を入れて6時間もかかるので土曜日だけ上演されているらしい。
普通のオペラは休憩を入れてせいぜい3時間、いくら長くても4時間足らずだからその長さが分かると思う。

聞いた所によれば、管楽器の人達は前半と後半でメンバーが入れ替わるそうだ。

このバイロイト音楽祭の初日はドイツ国中の政治家、テレビスター、財界の大物達が一堂に集まり、必ずテレビのニュースで
報道され、ラジオで実況中継され、今年の演出が…。という評論が必ず交される。

かなり前のことだったが、開催中にこの劇場を訪れたことがある。
劇場の前ではたくさんの人達が、「チケット捜してます」、あるいは「〇〇と〇〇のチケットを交換して下さい」と書いた紙を
持っている人達がいた。

その中に若い女性がおり、私が、「でも、ワーグナーだったら、ニュルンベルクでもベルリンでも、ドレスデンでも聞けるでしょう?」
と話した所、「でもバイロイトじゃありませんからね」、と応えていた。
この若い女性ワグネリアン、30年たったらどんなオ〇〇リアンになっていることやら…。

ちなみにあのヒトラーは大のワグネリアンで、ワーグナーの孫娘のヴィンフリート・ワーグナーと、「君」、同志で呼び合う仲
だったらしい。
そしてその子供達のヴィーラントとヴォルフガング・ワーグナーの二人はヒトラーを叔父さんのように慕っていた、ということで
ある。

そして興味深いことに、ヒトラーを風刺したチャップリンの「独裁者」という映画(これはチャップリンの映画で最高傑作だと
思っていますが)にワーグナーが使われているのです。

チャップリン演ずる独裁者のヘンケルが「俺の地球、きれいな地球」と言いながら、地球儀の風船をもてあそぶシーンで
使用されているのがワーグナーのオペラ「ローエングリン」の前奏曲。

そうそう、思い出しました。このワーグナーはヒトラーが政治に使ったし、ワーグナー自信が反ユダヤ主義者だった、
ということもあり、今までイスラエルでは演奏されなかったのですが、今年02年の初頭にベルリンのオーケストラ演奏会の
アンコールにワーグナーを演奏する、とユダヤ人である指揮者のダニエル・バレンボイム氏が話した所、会場は
大騒ぎになった。結局演奏はされたのだが、「そんなもの聞きたくない!」、と叫んで席を蹴って出た観客もいたらしい。