ドレスデンの話 その2

私がまだ東ドイツで音楽家の端くれとして活動していた時の話です。

この町の様に世界的なオペラ劇場を抱え、ルーベンス、ラファエロ、デューラーの絵が並ぶゼンパー美術館、
古い中国、日本からの陶磁器が展示され、先に述べた緑の天井財宝館、そして周辺にはマイセン、
ザクセンのスイスなどの名所旧跡を抱えている人口約60万にも満たない町が世界のどこにあるというのだろう?

特にこの町が誇るゼンパーオペラ劇場は、その母体が世界で最も古いオーケストラのうちの一つであり、
かのヴィヴァルディが「ドレスデン宮廷オーケストラの為の組曲」という曲を作曲し、カール・マリア・フォン・
ウェーバー、リヒャルト・ワーグナーが音楽監督を勤め、リヒャルト・シュトラウス、カール・ベーム、
オトマール・スイトナー、フリッツ・ブッシュ、そして日本人では小澤征爾、岩城宏之、若杉弘が指揮を取ったこともある
名門であり、日本にも1974年以来、オーケストラ単独、あるいはオペラと共に数回に渡り演奏旅行を繰り返している。

この小さな町で、当時千七百万人の、しかも日常生活に不自由するどころか、楽器でさえもすんなりとは手に入らない
東ドイツという国で世界的なレベルを保っていた、ということは賞賛に値するだろう。
ある日本の音楽評論家が、「このオーケストラに良い楽器を持たせたら、どんなにすばらしい音が出るだろう。」と
コメントしていたことがあった。

そのオーケストラの練習を見学する機会に恵まれたことがある。

年に何回か行なわれるオーケストラコンサートのリハーサルで、指揮は故イーゴリ・マルケヴィッチ氏であったが、
何とそのリハーサルが始まる1時間前にオーケストラのほとんどのメンバーが集合し練習をしていた。
このような名門中の名門のメンバーはベートーヴェン、ブラームス、モーツァルトをはじめ、有名な作曲家のほとんどの
作品は練習しなくても本番の演奏会を迎えるほどに完璧に演奏できるのだが、それでも自発的に練習をしている、
というわけである。

同時に彼等はドレスデンの音楽大学で教鞭を取っている人達も多く、その弟子がこのオーケストラに入っているのも
決して珍しいことではない。
師匠が時間前に来て練習しているのに、弟子が遅れて来るわけにはいかない。
結局は時間前に皆集まって練習する、という伝統が出来上がっていて、それが当然のこととして受け継がれている、
ということだろう。

「これが彼等を世界的レベルに持ち上げ、そして維持している力なんだな。」と納得する。

だとしても、彼等は変に気取った、いわゆる、「ゲイジュツカ」、ではなく、一歩音楽を離れたら全く普通の、
裏で東ドイツ政府に対して不満をたらたら漏らし、「日本の女の子はかわいい」とか、「日本の酢だこがおいしい」と話す
気さくな「オジサン達」なのです。カッコいいなー。



ゼンパーオペラ劇場






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