アウトバーンの話 その1
ドイツの自慢の一つは、何と言ってもアウトバーンと呼ばれる高速道路。
アウトは車(アウトモビル)のアウト、バーンは、長く続いている物の総称である
(鉄道をアイゼンバーン、競技場のトラックをバーンと呼ぶ)。
このアウトバーンは、ヒトラーが1933年に政権を握り、当時600万人いた
失業者のために、失業対策の一環で建設が始まったと聞いている。
そのために、なるべく機械を使わずに人海戦術を取ったそうで、今の中国
みたいな感じで工事が進められたわけである。ノルウエーのオスロから、
イタリアのミラノまでを結び、ドイツ国内を縦横微塵に1万6千キロを結ぶ
広大な計画を立て、現在ではドイツ国内に1万1千キロほど巡らされており、
いまだに建設が行われているのだが、予算の関係もあって、あまり進んでいない
様である。
シュヴァルツヴァルトを横断する国道沿いの住民たちは交通量の多さに
音を上げてしまっており、「いつになったらバイパスができるんだ!」とかいう
ポスターが貼ってあったり、ノイシュヴァンシュタイン城のある南ドイツのフュッセン
あたりでは、手前からアウトバーンが切れてしまっており、夏になると休暇で
オーストリアに向かう車で大渋滞となる。
現在では原則として左右2車線ずつであるが、交通量の多い、特に工業都市の
密集しているルール工業地帯はかなり複雑にアウトバーンが入り組んでおり、
3〜4車線のところも多い。
ドイツのアウトバーンを走る
最初に建設された場所はフランクフルト−ダルムシュタット間の約18キロで、
ここも4車線になっている。当然建設された当時は左右1車線だけで、
旧東ドイツ時代には、この1車線ずつのアウトバーン、しかも進入路が石畳の
ものが残っていたが、アウトバーンとは名ばかりで、戦後ほとんど改修されて
いなかったらしく、穴だらけで、凸凹しており、かなり酷い状態のものが多かった。
その後東西ドイツが統合されて最初に行われたのが、アウトバーンの整備だったため、
最初の2〜3年は工事現場だらけで渋滞ばかりだったが、その後は旧西ドイツの
ものよりもずっと良くなった。
何しろ60年の伝統があるため、新旧交代してしまったようなものである。
さて、このアウトバーンについて、バス、トラックは100キロ制限だが、乗用車には
原則としてスピード制限がないというのは有名な話である。
もちろん、場所、天気、道路の状況によっては80、100、120キロなどのスピード制限を
設定している場所があるが、何もない場合は、乗用車は何キロで走っても良い。
小さな車で100キロ位で走っていると、アウディあたりが、130〜150キロで
抜いて行く。それを170〜180キロほどで、ベンツとかBMWが抜いて行く。
そこで驚いてはいけない。それをポルシェあたりが、200キロ以上でドル〜〜〜ン!
という音を立てて追い抜いていくのだが、それをフェラーリが、250キロほどで、
ヴアッという爆音を立てて追い抜いて行くのである。
その速いこと!まるでゴキブリのように速い。
私自身は一度だけ、アウディのクアトロに乗って220キロを出したことがあるが、
いや、その怖いこと!180キロまでは何とか大丈夫だが、190キロになるとハンドルを
しっかり握って目をまっすぐにしていないと、怖くて仕方がない。たった10キロの違いで
こうである。200キロを超えると、「怖いから話しかけないでくれ!」という感じに
なってしまい、瞬きするのも怖い。F1レーサーがサーキットで350キロを出す、それも
あの低い車体の車に乗っているのだから、かなり怖いはず。これはもう人間のなせる業とは
思えない。
普通は120〜130キロ前後が一番走りやすい速度で、燃費を考えた場合には
100キロあたりが最も効率がいいようである。ただし、100キロというスピードは、
どちらかと言えば、乗用車にしては流れに乗っていない、ちょっと遅めの感じである。
一応スピード無制限であると書いたが、130キロを越えて事故を起こした場合には、
その理由如何を問わず、自分の過失も問われることになっている。
先日、ドイツ最大の自動車会社のテストドライバーがアウトバーンをテスト車で時速
300キロ以上を出して先行車を煽り、それにびっくりした先行車が急ハンドルを切って
道路を飛び出す大事故を起こしてしまった。この煽ったドライバーは訴えられて、
第1審で有罪になり実刑判決が出た。現在控訴中である。
自動車会社が後ろについているのだから、しばらくかかるだろう。
それでも、後ろにぴったり付いてパッシングする、という車は以前よりはかなり減った
様である。このパッシング自体が罰則で規制されたせいでもあるが、やたらと飛ばす
ドライバーがいなくなったようにも感じるし、ドイツ人ドライバーの運転マナーがいいことに
もよる。アウトバーンに進入する際は必ず入れてくれるし、ましてやどこかの国の
ドライバーの様に、目が合ったとか何とかで競争するようなこともしないし、暴走族も
いない。
早い話が、誰でも暴走しているわけだから。
ドイツ個人旅行専門の日本人ガイド、リムジンサービスとして、お客様をお乗せして毎日200〜300キロを
観光しながら移動するのは決してつらいものではない。
それは、取りも直さず、アウトバーンが無料なのと、渋滞がほとんどない、ということによるものだと思う。