ドイツの車の話 その3(ミニバスをチャーターした話)
その2で述べた通り、旅行する際に車と言うのはこれほど便利なものはない。ただし、
動いている限りはと言う条件が付く。
逆に、動かなかったらこれほど頭にくるものはない。
完全に粗大ごみである。アウトバーンで自分の車よりもいい車がエンコしているのを
見つけると、「ザマミロ」と思う。なんてことを言っているが、自分の車も2〜3回エンコした
ことがある。
幸いなことに、お客様を乗せて運転中に起きた事は一度もないので不幸中の幸いである。
エンコしている車はたいていが電気系統の故障によるものである。機械系、たとえば、
ブレーキが甘くなった、クラッチが滑っているみたいだ、ということは運転していると
感じることができるし、そのままある程度は走ってくれるし、すぐ停止してしまうことは
まずない。
ところが電気系統の場合は突然である。しかもどこが悪いのかさっぱり判らない。
何をしてもウンともスンとも言わなくなり、全くのお手上げである。
最初のエンコは、1950マルク(約15万円)で購入した12年落ちのアウディ80であった。
交差点で急にエンジンが停止し、イグニッションキーを回してもセルモーターが動かない。
仕方がないので、日本でJAFにあたる、ADACに電話をして来てもらう。
ADACの救護車には修理工が乗っており、簡単な修理はその場でしてくれし、
手に負えなかった場合は、最寄の修理工場まで牽引して行ってくれる。
この時は、イグニッションキーのソケットの接触が悪くなっていただけで、3本の電線を
使ってセルモーターを動かすようにしてくれた。
たったこれだけの原因で動かなくなってしまったのである。修理工場でこのソケットを
交換してもらったら、たったの25マルク(約1800円)ですんだ。「小さな原因、
大きな故障」というわけである。このソケットの故障は、ずっと後にポーランドのクラカウで
も起きたし、ケーブルが外れていただけでエンコしたこともある。電気系統が弱いのは
かなりの問題である。
ドライバーガイドとして働いてから最も大きな故障はスイスのチューリッヒで起きた。
ドイツのリムジンサービス(個人ハイヤー)を始めて4〜5年経ったころだったと思う。
その当時、持っていたのはドイツ・フォードのミニバスで、21万5千キロを越えた時点で
エンジンが壊れてしまった。
今から考えると、この時に買い換えておけば良かったのだが、ボディもいい状態だし、エンジンだけを
交換してそのまま使っていた。ところが、それからというもの、どうも調子が良くない。
エンジンはきちんと回るし、ちゃんと走るのだが、マフラーが折れたり、触媒を取り替えた
りしなければならなかったりと、おかしなことばかり起きた。
その日は、300キロほど離れたチューリッヒに行き、翌日からお客様を乗せてドイツのフュッセンまで
お連れすることになっていて、午後になってからゆっくりアウトバーンを走らせたところ、
100キロほど離れたバーデン・バーデン付近で、急に爆音が酷くなった。
車を路肩に寄せて止め、エンジンルームを見ると、マフラーを繋いでいるボルトが折れており、
そこから音が漏れていた。おまけに排気管の先端も折れてしまっている。
そこへ運良くADACの車が通りかかり、近くの修理工場まで牽引して行ってくれた。
工場で応急修理をしてもらい、そのままスイスの国境を越えてチューリッヒの町に入る
手前で再び爆音がした。今度はもっと酷い。
見ると、エンジンから出ている排気管が折れてしまっている。
車が動くことは動くのだが、とてもお客様を乗せて動かせるような状態ではない。
やっとのことでホテルにたどり着き、旅行会社に電話して、フュッセンからハイデルベルクまでの2日間の
ミニバスハイヤーを手配してもらうように依頼し、翌日のチューリッヒからフュッセンまでの車の手配を
どうするか考える。
お客様は5人。セダンに乗せるのは絶対無理。翌日は土曜日で、レンタカー会社のオフィスが開くのは10時。
待っていたらフュッセンに行く時間が遅くなってしまう。
結局フュッセンまでミニバス・タクシーをチャーターすることにする。料金は950スイスフラン(約8万円)、
高い!。もちろん前払いである。この時が初めてのクレジットカードキャッシングだった。
結局このツアーは、チューリッヒのミニバス・タクシー、修理代、チューリッヒまでの電車代、ドイツ国内のハイヤー
2日間のチャーター料、その他で大赤字になってしまった。
一連の原因は、フォードのミニバスが21万5千キロを走った時点でシャーシーが歪んでいたためにエンジンが壊れ、
それに気が付かずに新しいエンジンを搭載したために、あちこちに負荷がかかり、マフラーが折れたのだと気が付いた。
その後、フォルクスワーゲンに買い換えたが、こちらは値段が高いだけあって内装も良く、メカニックも
全く問題なく動いてくれ、28万5千キロで手放した。
日本では10万キロを超えると廃車にすると聞いているがもったいない。
日本の車もそれぐらいは走るはずである。自分の経験から言えば、良い車というのは、とにかく絶対に故障しない車で、
そして万が一故障した場合でも、動いてくれる車のことである。
そういう意味では、エンコの原因となる電気系統がしっかりしている日本車が一番である。
正直に言えば、価格、内装、その他を合わせた総合点で最高点を取るミニバスはトヨタのハイエースではないかと
思っているのだが、いくらなんでも、ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンなどでおなじみの国であるドイツにいらした
お客様を日本車に乗せるわけには行かない。
それに修理網などを考えると、今のところはフォルクスワーゲンのミニバスというところで落ち着いている。