ホテルの話 その1

1989年だったと思うが、両親が私の所にやって来て1983年に次いで2回目のヨーロッパ個人旅行を
することになった。
まだドイツのリムジンサービスを始める3年ほど前のことである。
前回は旧東独、オーストリア、オライダ、ベルギー、パリだったので、両親の希望により南ドイツと
ヴェニスにする。

ヴェネチアングラスも買い、ノイシュヴァンシュタインも見てアウトバーンを北上し、
世界で最も高い教会があり、アインシュタインが産まれ、カラヤンが勤務していた、という
ドナウ河畔の町に立ち寄り昼食にする。

この町のドナウ川が枝分かれした小さな川のほとりにある漁民地区は古い家が立ち並び、
昔の面影を残しており、しゃれたレストランも何軒かあり、ドナウ川のすぐ近くなので機会があれば
立ち寄ることにしているのだが、その時見つけたのが「シーフェスハウス(傾いた家)」と名づけられた家だった。

ホテルと表示がしてあり、「へー、おもしれーなー。どんな感じだろう?」と思いながらもしばらく
行く機会がないままでいた。

ところが、1998年にA社が手配するホーヘンツォレルン城で挙式するカップルがどこで見つけたのやら、
このホテルに泊まりたい、という予定表がこちらにメールされて来た。

すかさず、「泊まったことはないけれども、面白いホテルだし、川の音も聞こえるし、
新婚さんにだったら絶対いいですよ。」とコメントする。




ウルムのシーフェスハウス(傾いた家)というホテルです。


Tご夫妻はレンタカーでこの町に行ったので結構道に迷ったのではないかと心配したのだが、
無事到着してこのホテルに満足していた、とA社からの知らせを受ける。

このホテルはその後A社の推薦ホテルとなり、新婚旅行で私がご案内する場合には
このホテルが組まれていることもあり、何度かこのホテルに泊まったことがある。

家自体は13世紀に遡り、1443年に今の形に建造されたのだが、地盤が柔らかい為に
どんどん傾いて行き、このような格好になってしまったという訳である。

この家には色々な人達、特に貧しい職人達が住んでいたらしいのだが、結局は町に引き取られ、
1995年にできるだけ昔のままの物を使用する、という方針で改装されてホテルとして使用されることになった。

全部で10部屋あるだろうか?階段は狭く、スーツケースを持って歩くにも大変なホテルではあるが、
中は非常にしゃれた造りになっており、洗面所、お風呂もかなり使いやすくなっている。

床はスーツケースを立てるとゴロゴロ転がるようになっており、きちんと傾いているのだが、
ベッドは寝返りがきちんと打てるように大丈夫、こちらはきちんと水平に調整されている。

このホテル、ギネスブックに載っているそうな。「どう言う理由で?」とホテルの方に質問したところ、
「傾いているから。」という答えだった。

「ふーん。一体ホテルというものは傾いていていいんですかね?」という意地悪な質問をさせて頂いた。

もうしばらくこのホテルには泊まっていない。