休暇の話
学校では、「ドイツ人は世界で最も勤勉な国民である」と教わったが、果たしてそうか、と言うことは別として、
ドイツには「休暇法」という法律がある。
これには、「被雇用者であれば誰でも、年次休暇を(日曜日を除いて)24日間、つまり実質的には約4週間、
それも2週間連続して取らねばならない」と制定されている。
さらには、この休暇は毎年翌年の3月31日まで消化しなければならず、貯めることは許されていない。
ましてや日本人の様に、「病気になったので、有給休暇を取る」、あるいは、「給料を払うので、
休暇を返上してくれ」、などということは考えられない。
早い話が、「取らねばならない」ものであるし、「取らせなければならない」ものである。
「当社にはその様な法律は関係ない」などという理屈は通用しない。
従業員が、不当労働行為である、と労働裁判所に訴えたら、雇用主に勝ち目はない。
ドイツでは労働者を保護する多くの規定があり、これを全て遵守したら会社は本当にやって行けるのかいな?
などと思ったりすることもある。
例外として、私のような個人事業主は、この規定の対象とはならない。ただし、私に従業員がいた場合には、
この従業員に休暇を取らせる義務がある。
シーズンになると、町の小さな商店や開業医なども、「O月O日まで休暇でお休みします」と張り紙をして、
医者とか歯科医などは、「患者さんは〜医師のところに行ってください」と書いてある。
お互いに患者さんの代診をしているわけである。
外国人が外国人を雇ったり、もぐりの従業員を雇っている事業主はこれを遵守していない
場合もあるらしいが、これについては、外国人の話が出たら述べることにしようと思う。
この有給休暇という制度を制定したのはヒトラー政権の時代と聞いている。「喜びによる力」というキャンペーンで、
「被雇用者であれば誰でも1週間の休暇を取らねばならない」と定め、政府が援助金を出して、たとえば
「スカンジナヴィアを巡る豪華客船ツアー」、あるいは、「バルト海沿岸で休暇を過ごす」といった休暇を提供した。
それまでは普通の労働者、従業員の休みなどは日曜日、あるいはクリスマスなどの祝日、そして何か特別な
機会にしかなかった時代に、「誰でも休暇が1週間取れる。
しかも安い料金で旅行ができる」という画期的な政策が取られたのである。このような体験ができれば、
「また一生懸命働こう」という気にもなろうというものだし、それが政府の狙いでもあった。
国民に飴を舐めさせたわけである。
これが国民に受け入れられないはずはないし、失業率も下がりはじめ、だんだん国民の暮らし向きが良くなってきた。
「こんな良い政策を取っている政権が悪いわけはない」とばかし、ヒトラーは国民のアイドルとなってしまい、
ドイツ人は盲目的に政策を支持し、あるいはユダヤ人弾圧などの悪いところには目をそらし、破壊への道を
たどったのだった。
それはそれとして、一般的にこの休暇は24日間どころではなく、最低30日から最高8週間というところもあり、
大きな工場やオフィスは操業を停止したり、交代で休暇を取ったりする。
そして夏の休暇は、学校の夏休みに合せて取る場合が多く、北ドイツは6月末、南のバイエルン州は8月から始まり、
この時期になると、太陽を求めて南に移動する車で渋滞する。
特にミュンヘン−ザルツブルク間は、毎年のように50〜90キロの渋滞となり、そのたびにニュースに出てくるし、
スペインの地中海沿岸やアフリカ沖のカナリア群島、フランスのコート・ダジュール、プロヴァンス地方などは、
大挙して押し寄せるドイツ人でごった返す。
先日プロヴァンスに行ったら、周りからはドイツ語しか聞こえてこなかった。ドイツ人ほど旅行好きの国民はいない、
と良く言われているし、この休暇を楽しく過ごすために働いている、と言っても過言ではない。
そして、そのために共稼ぎをしているのが一般的である。
私が理解できないのは、失業者が休暇でどこかに行く、という話を聞くことである。
休暇というものは、一生懸命働いている人がリフレッシュをするためにするものであって、毎日休暇を過ごしている人が
するものでもないと思うのだが。
これが日本では、休みがだんだん取れない、あるいは労働時間が長くなるといったような、
全く別な現象が起きていると聞いている。
どこかのスーパーマーケットでは、正月元旦までお店を開けてしまい、それに合せて他のお店も開けるようになったとか。
そこまでしなくても…。と思うし、従業員は「勘弁してよ〜。正月ぐらい休ませて!」と思っているの
ではないか?
いやいや仕事をするようになったら、逆効果だと思うのだが。現在の日本の経済状況では、給料を上げることは
無理なのはわかるが、その見返りとして、ドイツのように毎年とは言わずとも、3年に1回、交代で2週間ほど
休めるようにすれば、従業員はやる気を出して一生懸命働くだろうし、その様な会社には優秀な従業員が集まってくる
だろう。
特に旅行好きの若い女性などからは絶対の人気を呼ぶことは間違いない。
そうすれば、会社の社長は従業員に感謝され、皆さんゆっくり海外旅行ができるし、旅行会社は儲かるし、
私も儲かる。というわけでみんなハッピー、となると思うのだが・・・・・。
このような逆の発想ができる会社が出てきてほしいものである。
日本人の男が3人集まると仕事の話しかしないし、日本人の若い女性が集まるとファッションの話しかしない。
そしてドイツ人が3人集まると休暇の話しかしない、とよく言われている。
東ドイツ時代に、こんなジョークを聞いた。
ドイツ人が言った。「俺たちは休暇には車で行くんだ。この前は南フランスに行ったんだぞ」。
アメリカ人が言った。「へ〜んだ。俺たちは休暇には飛行機で行くんだ。この前はヨーロッパに行ったぞ」。
ロシア人が言った。「へ〜んだ。俺たちは休暇には戦車で行くんだ。この前はアフガニスタンに行ったぞ」。