お客様を怒鳴った話

旅行業はあくまでもサービス業であり、お客様にいやな思いをさせるということは当然許されることでは
ないのだが、逆にお客様が何をしても許されるということではない。

写真撮影禁止の場所で撮影したり、展示物に触ったり、あげくは落書きしたりと、2-3度やんわりと注意しても
止めないときには「いい加減にしなさい!」と怒鳴ったりすることもある。

それにしても、最近は白いマジックで落書きしているのがやたらに多くなった。

旅行に白いマジックを持参するとは、完全に確信犯としか思えない。
日本人はさすがにほとんどいないのだが、日本周辺の国の人たちがかなりやっていて、ハイデルベルク城の
ワインの大樽にはかなりそれが目につく。誰も注意しないのだろうか?

まあ、本人たちは隠れてやっているのかもしれないが。

そういう話とは別に、お客様を怒鳴った話。

誰も彼も海外旅行したバブルの時代であったが、夏休みを利用して、高校生や大学生が
ヨーロッパ研修旅行と称してやって来たのがかなりあった。

ある関西の女子高生30人ほどが、英語研修のためにイギリスに滞在し、最後の1週間ほどを周遊旅行した際に、
ハイデルベルクにやって来た。

ガイディングを始めたのだが、お城からの町の眺望がすばらしいために、生徒たちは夢中になって写真を撮りまくっていて、
なかなかおさまらず、こちらが説明しようとしても、それには全く興味がないようだった。

引率の先生が大声で生徒たちに、「皆さん、こちらへいらっしゃい。ガイドさんが説明してくれるから、
こちらにいらっしゃい!!!」と何度も叫んでいたが、生徒たちはまったく耳を貸さない。

「先生、やめて下さい。私がやりますから。」

生徒たちに大声で怒鳴った。
「あなた方いい加減にこっちにいらっしゃい!あなた方いったいどこに来てると思ってるの!?
京都や奈良じゃなくて、ヨーロッパに来てるのよ!!あなた方のご両親が、あなた方のこの旅行に
いくら払っているのか知ってるんだろうな?知らんとは言わせんぞ!
一日いくらになるか考えてごらんなさい。よっぽどいかがわしいアルバイトでもしない限り、
稼げない金を使っているのよ!あなた方のご両親がどんなにつらい思いをしてあなた方のために働いているか、
分かってんのか!?本来であれば、あなた方のご両親が来てしかるべきところを、あなた方のこれからの勉強に
役立ててほしいと思ってヨーロッパに送ってくれたの。これから私が話すことは、世界史の授業に全部出てくることだし、
あなた方はその場で話を聞くことができるのよ!!あなた方はもうそろそろレディなんだから、
それにふさわしい行動をとらなけりゃだめですよ!!!」

今まで大騒ぎしていた生徒たちは、シ〜〜〜〜〜〜〜ン。それを聞いていた添乗員は真っ青
(カラーでお見せできないのが残念です)!!!完全におろおろしている。そりゃそうだ。
大事なお客様を大声で怒鳴っているんだから。

ところが引率の先生は私に向かって手をすりながら、「ありがとうございます!!!!」と最敬礼をしてくれた。
こんなに感激しながらお礼を言われたことはない。

それ以後は、この生徒たち一生懸命私の説明を聞いていた。さぞかしびっくりしたことだろう。
別れ際、「お父さん、お母さんにお土産いっぱい買って行けよ。」と話す。
家に帰ってからご両親に、「ハイデルベルクのガイドにこっぴどく怒鳴られた」と思い出話をしてくれたかしら?

巷では、私は「恐いガイド」という評判が立っているそうな。そんなことないんだけどなー。