ドイツの日蝕の話

1999年8月11日、ドイツのシュツットガルトを中心として、ハイデルベルク南方からシュヴァルツヴァルト周辺で
13時ごろあたりから皆既日蝕が見られる、ということで、国中で話題騒然であった。

とは言うものの、日本の昼のワイドショーの様に、毎日ああでもない、こうでもない、レポーターがあちこち駆け回って話題が話題を呼ぶ、
ということは起こらない。

専門家をスタジオに招き、この皆既日蝕が、「どこの範囲で見られるのか」、「どの程度続くのか」、そして、「どのようなことに
気をつけねばならないのか」といったことについて、非常に落ち着いた感じでインタビューを行い、それに学者が
丁寧にコメントするという、落ち着いたものであった。

それによれば、絶対に肉眼で双眼鏡や、望遠鏡で覗かないこと。専用の眼鏡を使用することが述べられていた。

問題はこの専用眼鏡である。普通のサングラスでは不十分で、専用の眼鏡を買うにしても、どこでも売っているわけでもないし、
いくらするかも分らない。

ところが、有り難いことに、眼鏡を大量販売しているチェーンストアが、紙の枠に保護箔を施した薄いプラスチックレンズを取り付けた
眼鏡を町行く人たちに無料配布してくれたのである。というわけで、私も念のために一個頂いておく。

その2日ほど前のことである。日本から、ドイツまでこの皆既日蝕を見に行こう、というツアーが企画され、私はそのスタッフと一緒に、
観測に適当な場所と思われたシュツットガルト近郊の小さな飛行場の下見に行くことになった。

行って見ると、確かに回りは牧草地になっており、飛行場のトイレも使わしてもらえる、なかなか良い場所である。

問題は、立ってずっと待っているわけにもいかないだろう、ということで、座る場所を作るために、ペンキ塗りの際に使う
大きなビニールシートを調達した。

残るは天気が良いのを期待するだけである。

さて、8月11日の当日、私は、「ライン川下りをして、ハイデルベルクに行きたい」、という、別のお客様を4名ほど乗せる仕事があった。

道すがら、皆既日蝕の話になり、「どうしても見てみたい」、というリクエストが出た。

「それはかまいませんが、ハイデルベルクでの昼食が遅くなりますよ」、と私。
それでもかまわない、ということで、ライン川下りを終えた後、アウトバーンを南に向けてひた走る。

12時過ぎから少しずつ太陽が欠けて行くのが見えてきた。

この調子で走れば、皆既日蝕が見える北端のハイデルベルクの南まで間に合う。

ところが、あと約20キロという地点から渋滞が始まり、その直後、完全に交通はストップしてしまった。

誰でも考えることは同じらしい。この稀なるイヴェントを見るためにドイツ中からこの場所を目指してやってきた人たちばかりである。
残念だが、仕方がない。

路肩に車を寄せて停車する。その前後には私と同様に停車した車が並ぶ。

そのうちにも日蝕がどんどん進行し、回りがだんだん薄暗くなって行く、と同時に、8月の昼にもかかわらず、クーラーをかけた様に
空気がひんやりとしてくる。

結局皆既日蝕には至らず、99パーセントといったところだろうか。

隣の車に乗った人たちは、ケルンから朝の6時に出てきたそうな。

そういう意味では、我々はラッキーだったかもしれない。お客様一応は満足してくれた様である。

カメラを持参していなかったのが、つくづくも残念だった。

後日、お客様からは空を見上げている写真を頂いたのだが。

ところで、その2日後、日蝕を見ようとせんがためにシュツットガルトにツアーで来ていた人たちとフランクフルトでばったり出くわした。
シュツットガルトはこの日、曇りで小雨模様だったので全く見れなかったそうな。

皆さん、「ク〜〜〜ッ、残念!!」、という悲しい顔をしていました。