ばったり会った話

まだ東ドイツにいた時の話だが、1984年の3月頃だったと思う。西ベルリンに出ると
必ず立ち寄る楽譜屋があり、西側のオーケストラの募集広告が出ている「ダス・オルケスター」という
月刊誌を立ち読みしていると、視界に日本人のカップルが入ってきた。

さて、その雑誌も見終って書棚に返し、ふと顔を上げると、そのカップルの女性の方がこっちを
じっと見ている。こちらもその顔を見て、心臓が飛び出るほど驚き、お店の中一杯に響き渡るほどの
大声で叫んでしまった。
「Hさんじゃないか!!!」。
「藤島君?」。
「どうしてこんなところにいるの?!」。
「あなたこそ、どうして?」。
「びっくりした〜〜!」。

なんと、高校1年と2年の時に私の前に座っていた同級生!!こんな所で再会するとは、誰が信じるだろう。
高校を出て以来のことだから、14〜5年ぶりである。
「俺今、東に住んでいるんだよ」。一緒にいたのは彼女の旦那様である。

彼も、「いや〜、こんなことってあるんだね〜〜!」とびっくり。
早速近くのカフェに入って、お互いがどういうわけでベルリンにいるのか、という事を話し出した。

聞けば、ご主人は指揮者だそうで、「カラヤン指揮者コンクール・イン・ジャパン」で入賞し、
その後にベルリンにしばらく滞在していたことがあるらしく、今回も彼の先生の指導を受けるために
半年ほどベルリンに滞在し、まもなく帰国する予定だ、ということであった。

こちらは、東ドイツの小さな劇場のオーケストラでオーボエを吹いている、という話をすると同時に、
自分がどうして東に行くことになったか、そして東の音楽や社会的事情 を話した。

もっと以前から、お互いにこちらにいるということが分っていたら、東に招待することもできたのだが、
まさか同級生がこんな地球の裏側にいるなどとは誰が想像できるだろう。

それでも、家の中にじっと閉じこもっていれば、誰かに出会うことは絶対にありえないが、
外に出れば、お互いにどこかでその接点が見つかるということもありうる。

それにしても、よりにもよってベルリンで再会するなんて、神様のいたずらとしか思えない。

二人は音楽関係の仕事で知り合って結婚し、現在は名古屋に住んでいるとのこと。
そ してご主人は名古屋市民管弦楽団の指揮者もしているとのこと。「それじゃ、〇野というバイオリンを
弾いている男を知ってる?」。「ああ、あのひょうきんな方ね」。
「そうそう。あいつは大学時代のオーケストラ仲間だった。よろしく言っておいてね」、というおまけ
まで付いていた。

宝くじの一等を当てるよりも難しいと思われるほど信じられない話であっ た。
(もっとも、宝くじの一等が当たったら、もっと嬉しいんだが)。