トリーアの話

モーゼル河畔のトリーアという町は、紀元16年にローマ人によって建設された町で、
アウグスブルクと並んでドイツで最も古い町のひとつであり、ポルタ・ニグラ、カイザーテルメ、
コンスタンティン・バジリカ、野外劇場といった、当時の遺跡が残されており、歴史的には
かなり重要な町であろう。

惜しいことにロマンチック街道といった観光ルートから外れており、日本からの観光客が
来ることはほとんどないと思う。
私自身も、お客様をご案内したことは数えるほどしかない。

その中でも、まだ開放される前の中国からのグループをご案内したことがある。

「なんでまた日本人の私が中国人を?」、と思われるだろうが、ある日本の総合商社が中国宛てに
陶器製作プラントを仲買する、ということで、15名ほどの中国人グループがモーゼル河畔の
陶器工場見学をする際の通訳、およびガイドとして呼ばれたのである。
ドイツ語から日本語へ、さらに中国語へと、二重通訳という形での通訳であった。

そのついでにカール・マルクスの生家があるトリーアを訪問したというわけである。
共産主義国国民である中国人としては、彼の生家を訪れるのは当然であろう。
当日はあまり時間もなく、結局は町の見所を説明し、生家の前で写真を撮る、ということで終了した。

ワイン愛好家のリクエストで、久しぶりにトリーアを訪れたが、カール・マルクスの生家の側には、
中国人経営の免税店が開店していた。
現在ではそれだけ中国人が訪れる、ということだろう。

彼の書いた共産党宣言には、「万国のプロレタリアート、団結せよ!」、と書かれていたが、
天国から現実の社会主義、共産主義の実情を見て、彼はこう書き直したそうな。



「万国のプロレタリアート!・・・・・・・・・・・・・・・・・許してくれ・・・」。